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和歌山地方裁判所 平成5年(行ウ)3号 判決

原告

有限会社昌栄商事(X)

右代表者代表取締役

和田晃広

右訴訟代理人弁護士

矢田部三郎

被告

和歌山市長(Y) 旅田卓宗

右訴訟代理人弁護士

山本光彌

右同

福田泰明

理由

一  請求の原因1の事実は当事者間に争いがない。

二1  〔証拠略〕を総合すれば、以下の事実が認められ、〔証拠略〕部分は信用できない。

(一)  和歌山市におけるし尿くみ取り及び浄化槽の清掃業務は、平成五年四月以前には、被告から一般廃棄物収集運搬業及び浄化槽清掃業の許可を受けた二六業者によって行なわれてきた。

そして、従前これらの許可に際しては、業者に取扱い区域を定めて許可する、いわゆる区域割り制を採ってきたため、一定の区域については特定の業者のみが一般廃棄物の収集運搬や清掃を行なう独占的な営業が行なわれ、その結果、業者が自由に料金を設定するなどの弊害が生じ、市民からの苦情が絶えず、和歌山市において業者を指導・注意してきたものの、一向に効果が上がらず苦情も減らなかった。

そこで、被告は、この弊害をできるだけ無くすため、区域割り制を撤廃して各業者の自由競争とすることとし、従前の二六業者のうち、許可申請をしなかった一業者を除き、和歌山市が全額出資している和歌山市清掃株式会社及び二四の既存業者に対し、被告が許可更新時期としていた平成五年四月一二日、許可区域に制限を付さない一般廃棄物収集運搬業及び浄化槽清掃業の許可証交付式を行なおうとした。

(二)  ところが、和歌山市清掃株式会社を除く右二四の既存業者は、右区域割り撤廃について一致団結して反対し、右許可証交付式をボイコットした。被告は、同月一三日、既存業者に対し、「同月一六日までに許可証の交付を受けなければ無許可業者とみなし、許可を取り消す。その上で新たな業者に対して許可証を交付する。」旨の通知を出したが、既存業者はこれに反発し、同月一五日以降、し尿等一般廃棄物の収集運搬や浄化槽の清掃をすべて拒否し、操業を停止した。そのため、和歌山市は、既存業者に再考を促す一方、他の自治体等からバキューム車を借り受け、市職員によるし尿くみ取り作業を行ったが、需要に追いつかず、くみ取り未処理件数は増加する一方であるうえ、このようなし尿くみ取り作業をいつまでも継続することは不可能であった。

(三)  そこで被告は、右のような状態が長期化すれば、市民生活の混乱を招き、和歌山市が目指した区域割り撤廃という目的達成の支障になると考え、既存業者らに引き延ばし策をとられないようにするため、同月一九日、既存業者に対し、「同月二一日までに許可証を受領しない場合、更新の意思のないものとみなす。」旨の警告書を出す一方、区域割り制徹廃を前提とした一般廃棄物収集運搬業者と浄化槽清掃業者の新規募集を行うことで、既存業者が妥協してくるよう図ることとし、同月二一日夕方の記者会見において、バキューム車の保有の有無を問わず、既存業者も受け付けるとの方針の下に新規業者を募集する旨表明した。

そして、和歌山市は、同月二二日の朝日新聞、毎日新聞、読売新聞、産経新聞、和歌山新報の五紙に右新規業者の募集広告を載せ、同月二二日から二六日までの間、和歌山市環境事業部業務第二課において募集の受付を行った。なお、右受付に際しては、申請書類に不備があっても必ずしも指摘することなく受付け、更には、同月二三日以降用意した一般廃棄物収集運搬業許可申請書の記入例には、被告が右のように表明したとおり、事業の用に供する施設の種類及び数量の欄に「し尿収集運搬車両等を保有している場合は記入して下さい。」と、バキューム車を保有していない場合も想定した記載をし、また、浄化槽清掃業許可申請書の記入例の事業の用に供する施設の種類及び数量の欄に「浄化槽清掃を適正に行うための器具を保有している場合は記入して下さい。」と浄化槽清掃を適正に行うための器具を保有していない場合をも想定した記載をし、これに基づいて受付を行った。その結果、一般廃棄物収集運搬業については、原告を含む一四六業者の申請があり、浄化槽清掃業については、原告を含む三二業者の申請がそれぞれあったものの、被告が期待していた既存業者からの申請は一業者もなかった。

それどころか、既存業者は、同月二六日、従来の営業許可は同年七月三日まで有効と主張し、和歌山地方裁判所に対し、被告を相手取り、二億四〇〇〇万円の慰謝料請求等の訴えを提起した。

(四)  一方、被告は、右募集に応募してきた原告を含む業者に対する審査を選定審査会に諮問し、同年四月二七日午前一〇時から午前一一時四五分ころまでの間、和歌山市役所において弁護士、市議会議員、労働団体役員ら二〇名で構成される選定審査会が開催され、前記応募にかかる新規業者について審査が行われ、その結果新規応募の全業者について、バキューム車を保有して直ちにし尿くみ取り業務を行うことができると判断できる業者がなく、全員不適格とされたことから、被告は同日、和歌山市清掃株式会社を拡充させる意向を表明した。

(五)  そして、同月三〇日、被告は、原告を含む新規応募の全業者に対して、一般廃棄物収集運搬業の許可申請に対しては「一般廃棄物収集運搬業について」と題する書面で、浄化槽清掃業の許可申請については「浄化槽清掃業許可申請について」と題する書面で各不許可処分を通知した。右各書面には、業者選定審査会において「今回のような不測の事態を考えると、和歌山市清掃会社を充実し、その業務を行わせるのが最適と思われる。」との意見具申のあったこと、被告においてこれを参考に一般廃棄物収集運搬業を不許可としたことが記載され、「浄化槽清掃業許可申請について」と題する書面には右に加えて一般廃棄物収集運搬業を不許可としたことから、浄化槽清掃業も不許可となった旨記載されているが、その他に法で定める要件等に関する記載は全くなく、応募した全業者に対して同一の内容の書面で不許可処分を通知した。他方、同日既存業者は、被告に対し和解案を提示したが、被告はこれを拒否した。同年五月三日、和歌山市は、既存業者に対し、〈1〉市民からの料金サービス苦情について市民に陳謝する、〈2〉区域割りの徹廃を受け入れる、〈3〉浄化槽清掃業務の料金について和歌山市の指導する料金体系に従い完全明朗化する等八項目の誓約書を提出すれば、許可証を発行する旨の和解案を示し、これに基づいて、同月五日既存業者と和歌山市との間で許可の段階では区域割りを撤廃するが、業者間での事実上の区域割りは黙認するなどといった内容で問題を解決することに落ち着いた。

2(一)  右1で認定した新規業者募集の前後の経緯、特に、バキューム車等一般廃棄物の収集運搬業を的確に、かつ、継続して行うに足りる施設が存在しなければ、廃棄物処理法七条三項三号により一般廃棄物収集運搬業の申請を不許可とせざるを得ない(廃棄物処理法七条三項三号によれば、市町村長は、「その事業の用に供する施設及びその申請者の能力がその事業を的確に、かつ、継続して行うに足りるものとして厚生省令で定める基準に適合するもの」でなければ一般廃棄物処理業の許可をしてはならないと定められ、同条項を受けて同法施行規則二条の二(厚生省令)は、施設に関する基準として「一般廃棄物が飛散し及び流出し、並びに悪臭が漏れるおそれのない運搬車、運搬船、運搬容器その他運搬施設を有すること」と規定している。)ことを、許可権者として被告は十分に認識しているはずであるのに、その被告自身、バキューム車の保有の有無は少なくとも申請時には問わない旨表明し、そのとおり受付を行ったにもかかわらず、申請受付を締め切った翌日には選定審査会を開いて新規応募の全業者を不適格としていること、新規応募業者は一般廃棄物収集運搬業だけで一四六業者もあったのに、右選定審査会はわずか一時間半余りの時間で終了していること、不許可処分の通知書の内容が全業者について同一であったことからすれば、原告を含む新規業者からの各許可申請について個別具体的な調査、検討をしないまま不許可の処分をしたものと認められる。

更に、〔証拠略〕に照らせば、被告が本件新規募集を行ったのは、既存業者に時間稼ぎをさせないようにするとともに、既存業者のうちから新規募集に応じる業者が出てくることで既存業者の結束を切り崩し、結果的に妥協を引き出すことを主たる目的としたものであることが推認され、被告は、当初から新規応募の業者を一切許可するつもりはなかったのではないかとの疑問を払拭することはできない。

そして、右のような目的を秘して新聞広告によって新規業者を広く公募し、申請時にはバキューム車の保有は問わないと記者会見した被告の行為が、右広告や被告の言を信用して応募した新規業者に対し背信的行為と評価されるものであることはもとより、右目的のため、原告の本件各申請の法適格性を個別具体的に調査、検討することなく、本件各不許可処分をしたことは、それ自体右不許可処分には重大な瑕疵があることを意味する。

(二)  しかし、廃棄物処理法は、廃棄物の排出を抑制し、廃棄物の適正な処理をし、生活環境を清潔にすることにより、生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とし(同法一条)、市町村長に対して同法に定める要件に適合しない営業許可を禁じており(同法七条三項)、浄化槽法も、同法の定める技術上の基準に適合し、かつ、消極的要件に該当しないときでなければ浄化槽清掃業の許可を与えないこととし(同法三六条)ている。右両法に定める要件は、公益的な見地から定められたものであるから、本件各不許可処分の適否は、もっぱら、原告の本件各申請が廃棄物処理法及び浄化槽法に定める基準・要件に適合するか否かによって決せられるべきであり、本件各不許可処分に右のような瑕疵が存するからといって、直ちに違法となるものではないというべきである。

そして、一般に行政処分の取消訴訟においては、審理の目的となるのは行政庁の処分に含まれる判断の事後審査であるから、処分の適否もこれがなされた当時の事実状態に照らして判断すべきことはいうまでもないが、処分時に存在した事情であるかぎり、判断の資料となるのは、必ずしも行政庁が処分当時その存在を意識して斟酌したものにはとどまらないと解するのが相当であるから、以下では、被告が不許可の理由として本訴において追加主張するような事情があったか否かを検討することにする。

三  本件一般廃棄物収集運搬業不許可処分について

1  一般廃棄物収集運搬業不許可処分の裁量性

(一)  廃棄物処理法七条一項が一般廃棄物収集運搬業について許可制をとったのは、もともと一般廃棄物を収集・運搬することは市町村の自治事務(地方自治法二条九項、別表第二、二(十一))であり、市町村は一般廃棄物処理計画を策定し(廃棄物処理法六条一項)、これに従って、その区域内における一般廃棄物を生活環境の保全上支障が生じないうちに収集・運搬・処分しなければならない(同法六条の二第一項)が、これをすべて市町村が自ら処理することは実際上不可能であることから、許可を与えた業者をして右市町村の事務を代行させることにより、市町村が自ら処理したのと同様の効果を確保しようとしたものである。したがって、市町村長が右許可を与えるかどうかは、廃棄物処理法の目的と当該市町村の一般廃棄物処理計画とに照らし、市町村がその責務である一般廃棄物処理事務を円滑完全に遂行するのに必要適切であるかどうかという観点にたってこれを決すべきものであり、その意味において市町村長の自由裁量に委ねられている。

(二)  なお、原告は、し尿浄化槽清掃業の許可申請と併せて当該業務にかかる浄化槽汚泥の収集運搬業の許可申請を受けた場合、従前の処理計画により浄化槽汚泥収集運搬業の許可申請を不許可にすることはできず、同申請が廃棄物処理法七条三項三、四号の要件を充足し、かつ、し尿浄化槽清掃業の許可要件を充足している場合には、両申請を併せて許可しなければならないものと解すべきとして、廃棄物処理法七条一項の許可処分の自由裁量の制約を主張するが、右は、し尿浄化槽清掃業の許可申請があるたびに一般廃棄物処理計画が変容されることを許容することとなり、結局のところ一般廃棄物処理計画を没却してしまうことになるから、右のような解釈はとらない。

2  廃棄物処理法七条三項二号の適合性

(一)  〔証拠略〕によれば、和歌山市における平成五年度のし尿の発生及び処理の見込量は一六万五〇〇〇キロリットルであり、平成四年度の一六万四二五〇キロリットルを上回っていること、したがって、平成四年度の一般廃棄物収集運搬業許可業者が保有するバキューム車合計九九台と少なくとも同数のバキューム車が和歌山市の平成五年度の一般廃棄物処理事務を円滑完全に遂行するためには必要であったこと、本件一般廃棄物収集運搬業不許可処分当時、し尿ストのため、和歌山市民からのし尿くみ取り依頼についての未処理件数が数千件もあったことから、早急にし尿くみ取り業務の正常化を図る緊急の必要性が存在したこと、既存業者は新規業者の募集に対しては一致団結して強硬に反対していたことなどが認められる。

(二)  右の諸事情によれば、新規応募業者を採用した場合には、既存業者との和解は極めて困難となることが容易に予想されることから、被告としては既存業者を一体として扱うしかなく、〈1〉和歌山市清掃株式会社に加えて新規応募業者のみでし尿の収集運搬を行うか、あるいは〈2〉和歌山市清掃株式会社に加えて既存業者のみでそれを行うかを選択するしかなかったことが認められる。なお、右〈2〉が和歌山市の一般廃棄物処理計画を完全に行い得る態勢に当たることは前記(一)のとおり明らかであるから、右〈2〉を先に選択した場合、新規応募業者を許可するという余地はなくなる。

そして、仮に原告を含めた新規応募業者中にバキューム車を保有し直ちにし尿の収集運搬業務に従事することができる業者が多数いて、右の〈1〉が和歌山市の一般廃棄物処理計画に適合するとしても、右のとおり〈2〉も同様に和歌山市の一般廃棄物処理計画に適合することから、いずれを選択するかは前記1(一)のとおり許可権者である被告の自由裁量に委ねられているといわざるを得ない。

更に、〈1〉を選択するには各新規応募業者について個別具体的な調査、検討が必要であるところ、前記(一)のとおり、被告はし尿くみ取り業務の正常化を緊急に図らねばならない切迫した状況下にあったこと(業者選定審査会の審査では、原告を含む新規応募業者全員がバキューム車を保有せず、直ちにし尿くみ取り業務を行うことができると判断されなかった。)、また、〈1〉を選択することは既存業者にとっては実質上許可の更新の拒絶に当たることなどの事情を考慮すると、被告が〈2〉を選択し、その結果、原告の一般廃棄物収集運搬業許可申請が和歌山市の一般廃棄物処理計画に適合しないと判断しても、これをもって被告に付与された裁量権の範囲を逸脱したものということはできない。

3  したがって、原告の本件一般廃棄物収集運搬業許可申請は、和歌山市の一般廃棄物処理計画に適合せず、廃棄物処理法七条三項二号の要件を充足しないのであるから、その余の点について検討するまでもなく、被告が原告に対してなした本件一般廃棄物収集運搬業不許可処分は裁量権の濫用等はなく、適法である。

四  本件浄化槽清掃業不許可処分について

1  浄化槽清掃業不許可処分の裁量性

浄化槽清掃業は、本来それ自体で処理する機能を持つ浄化槽の内部の清掃等の維持、管理にあることから、地方自治法はこれを市町村の自治事務とすることなく、ただ、浄化槽によるし尿等の処理が適正に行われるか否かは、生活環境及び公衆衛生に影響を及ぼすことから、浄化槽法は、その三五条一項で浄化槽清掃業の許可制度を定め、浄化槽清掃業を一般的に禁止し、一定の技術基準に適合し、かつ、欠格事由に該当しない者に対してこの禁止を解除することにしたのである。右のように浄化槽清掃業の許可基準は技術的観点からのものであるから、その要件の認定には裁量は認められず、基準を満たした者はすべて許可されなければならない。

2  浄化槽法三六条一号の適合性

(一)  浄化槽法三六条一号及び厚生省関係浄化槽法施行規則一一条四号によれば、浄化槽の清掃に関する専門的知識、技能及び相当の経験を有していることが浄化槽清掃業許可の一要件とされている。そして、〔証拠略〕によれば、右「専門的知識、技能及び相当の経験」を有する者とは、実務上、厚生大臣の認定する清掃に関する講習会の課程を修了した者であって相当の経験を有する者をいうとされ、右の講習会としては、財団法人日本環境整備教育センターが実施する浄化槽清掃技術者認定講習会が認定され、同講習会の対象者は、浄化槽の清掃実務経験が二年以上の者とされていることが認められる。

(二)  しかるに〔証拠略〕によれば、原告には右財団法人日本環境整備教育センターが実施する浄化槽清掃技術者認定講習会の課程を修了した者であって相当の経験を有する者が存在しないことが認められ、本件全証拠によっても右認定を左右するに足りる証拠はない。

3  したがって、原告の本件浄化槽清掃業の許可申請が、浄化槽法三六条一号の要件を充足していないのであるから、その余の点を検討するまでもなく、被告が原告に対してなした本件浄化槽清掃業不許可処分は適法である。

五  以上のとおり、本件各不許可処分は適法であって、原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 林醇 裁判官 中野信也 新谷晋司)

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